辰年を迎えて 2
辰年に際しまして、今回はここで大聖院の護摩壇を守って頂いている、護摩壇本尊の倶利伽羅不動(倶利伽羅龍王)について載せたいと思います。
通常の不動明王像とは異なり、龍の姿をしたお不動様です。
倶利伽羅(クリカラ)とはもともと、インドの古代言語であるサンスクリット語の kulikah という単語を音写した言葉です。kulikah は「黒を具える(具黒)」という意味であり、仏界を守護する八大龍王の内の、黒い龍王の名称でもありました。
次第にこの黒い龍王は、同じく黒い体を持ち仏教を守護する神仏である不動明王の化仏と考えられるようになりました。
そして鋭い剣(力の象徴)に黒い龍王が巻き付いた尊像は、まさに不動明王そのものとして拝まれるようになったのです。
また、こんな説話もあります。
かつて仏教の守護者である不動明王は、多数の仏敵と論争になりました。無意味な論争を終わらせるため、不動明王は戯論(不要な戯れ言)を断ち切る智慧の剣に姿を変えました。すると相手も同じように剣へと変身したため、不動明王は更に剣から黒龍へと姿を変えました。龍の姿で敵に巻き付き、剣を先端から飲み込もうとしたところ、敵はすぐに降参して仏教への帰依を誓いました。
こういった信仰の変遷や言い伝え等から、倶利伽羅不動の像容は「剣に巻き付いた龍」の姿が主となっています。
不動明王自身も、真言密教の根本仏である大日如来の代表的な化身とされています。
つまり、大日如来から不動明王、不動明王から倶利伽羅不動(龍王)と姿を変える訳です。
真言密教に於いては、あらゆる仏は大日如来が状況に応じて姿を変えている変化仏とされていますが、不動明王は特に大日如来と密接な関係を持つ仏であり、そういった関係性の上では、倶利伽羅不動は真言密教にとって特別な尊格のひとりとも言えます。
大聖院の倶利伽羅不動像は、木を彫刻したそのままの御姿の為、黒い像ではありませんが、力強い面持ちを以って護摩供養を見守って頂いております。
倶利伽羅不動の加護のもと、皆様の健康、気概が、登り龍の如く隆昌であることを、心よりお祈り申し上げます。
〇空海さんの御言葉〇
「自在遊戯は即ち如来の事業威儀なり。」
・遊ぶが如く、(変化等)様々な法力を自在に駆使することが、仏の使命であり、姿勢である。